オックスフォード大学で教えられているコミュニケーション技術
イギリスの名門・オックスフォード大学で学ぶ人のことをOXONと呼ぶそうですが、彼らがどのように問題に向き合い、解決していくか?とくに「自分の頭で考えて、それを伝える」プロセスをわかりやすくまとめてある本。著者は日本の大学を出た後、アメリカの大学で学び、さらにオックスフォード大学で博士号を取得された岡田昭人さんという方で、現在は東京外国語大学で教鞭をとられています。
コミュニケーションにおける準備からフィードバックまで
5つプロセスに分解整理、解説しています
- 「自分の頭で考え、伝える」ために必要な 準備の技術(計画)
- 自分の頭で考える技術(生産)
- 厳しい知的鍛錬によって考えたことをもとに「言葉を作る技術」(言語化/包装)
- 多様な人々とのコミュニケーションを通じて養われる「伝える技術」(流通)
- 自分の行動を振り返り、改善につなげる「フィードバックの技術」(アフターケア)
自分と他者とのコミュニケーションの壁をブレイクスルーするためにはこのような思考・伝達プロセスがあると著者は述べています。これらの中で、例えば考える技術、伝える(プレゼン)術など、個々の方法論が書かれてある本は多いけれど、総合的にこれらの一貫したプロセスを総合的に習得させるようなものは少ないので、この本では全てを網羅させて学べるようになっている、というわけです。
バラエティに富んだ中身の濃い内容
かなりいろんなエッセンスが詰まった本で、知っていることも知らなかったこともありましたが、いくつかその中でも印象に残ったところをシェア。
Chapter1 オックスフォードの流儀
5.チュートリアルで身につく3つの力 の中で、オックスフォードでは「チュートリアル」という教授と生徒の問答を通じて、かなりいろんなことが鍛えられることがわかります。自分が書いてきたエッセイを教授にがんがん問い詰められ(討議)、それを元に次回への取り組みの検討をするという1時間の中で、分析力や表現能力、批判力と討議の能力、強調して問題解決を図る力が得られるようになっていきます。ここで一番日本人が苦手そうなのが最後の「強調して問題解決を図る力」なのかなーと思ったりしました。でもそれはイギリス人だってどこの国の人でも基本変わらないらしい。みんな凹むし悩む(笑)。
担当教授に「Why so?(なんでそうなるんですか?」と「So What? (で、それはどういうことなんですか?)」と何度も問われて、文章の中から要点を引き出すために使われる。そして最後に話した内容をどのように次回以降に反映させるのか、というところを話していくのがチュートリアルなんだそうです。
そこで役立ちそうなのが、「まことの詩」と著者が書いている方法。
ま:間をとって、即答しない。
こ:言葉を選ぶ (言葉遣いや表現が適切でないと相手の反感を買う場合がある)
と:遠くから見る (置かれている状況を一歩離れたところからみて、熱くなった状況を客観的に把握)
の:罵らないで心で叫ぶ (どうしても怒りが込み上げてくる場合は、気持ちを落ち着けるために自分の心の中で「今怒っている」と3回叫ぶ)
し:深呼吸する (大きく息を吸い込んで、吐くときは吸うときの2倍くらいの時間をかけて吐き出す)
こんな方法を用いてまで「キーッ」ってなったときに感情の波と冷静さを行き来したりして討議ってやるんだなあ〜と思いました。基本的にこういう訓練が日本人は足りないんですよね。すぐ感情的になってしまうというか。私も含めてですが。
これを読んで思い出したのが、ハワイ島でマッサージ学校に留学していたときのこと。
かなり厳しい学校だったんですがそこの先生が実はイギリス人だったんです。で、試験がすんごい厳しいので有名で。特に先生と一対一のインタビュー形式のテストがあって、いつもは優しくてニコニコしてるその先生が、その試験のときはめちゃ厳しい顔をしている。
で、「これこれのトリートメント(施術)のTheory(理論)を言ってください」「テニス肘について説明しなさい」「それは何故行うのですか?」「ここの筋肉の起始と停止を言いなさい」「その施術はなぜ2回行うのですか?」みたいな質問にさらり〜っと答えなくてはいけなくて、答えに詰まると再試験、という世にも恐ろしいヤツだったんですが、それってこのイギリス的伝統な試験方法だったのかもしれないな〜なんてふと思い出したりしました。でも、たしかにそうやって覚えたもの(再試験になったこと)とか、今でも忘れてないし、身になってるわけだから、(当時はそんなに威圧的な試験なんて意味あるのか!と思ってたけど)やはり有意義な方法なのかもしれない。
Chapter2 成果につなげる「準備の技術」
なにごとも準備が大切、ということで、10.伝える前に知っておくべき「話し方」の基本では、正確に伝えること、緊張を味方につけること、準備に時間をかけることを伝えています。
1.話すことへの緊張をときほぐす
①緊張することを前提に考える②すべては伝わらない前提で話す③からだを動かして呼吸を整えて、体の緊張をほぐす2 一にも二にも準備が大切
話すことが苦手な人とは、話が下手な人ではなくて、「準備不足な人」
①自分が最も伝えたいことは何か ②聴衆の関心のある話題は入っているか ③時間内で収めきれるのか3 相手が聞き取りやすい大きさの声で話す
4 わかりやすい表現や言葉、話の順序を意識する
5 非言語の重要さ しぐさが大事「凝視しない」「視線を落とさない」「目を細めない」(目を細める=睨みつける/相手を威嚇することになり印象が悪い)
こんな感じで、かなり細かいところまでくまなくどんなふうに「準備」するのが大事かも伝えています。うーん、勉強になるなあ。だいたいにおいて「苦手」なことの大半は「準備不足」「練習が足りない」ってのも確かにそうだろうなあ。得手不得手はあるでしょうが、ある程度までは訓練でなんとかなる。
Chapter3 自分の頭で「考える技術」
ここではタイムマネジメント方法や、マインドマップ、ロジカルシンキング、TーSharp思考など、いろいろな思考方法が紹介されていて、そのどれもがひとつずつ本になるようなものなので、浅く広くの紹介ですが、わたしが印象に残ったのは、15偶然のひらめきを引き寄せせるセレンディピティというところで、偶然のひらめきを生み出すための土壌として、ここでもやっぱり準備が必要って書かれていた部分でした。
偶然のひらめきは、本当に「偶然」なのではなく、そのひらめきを生み出すための土壌として「何故」という常に問い続ける姿勢と、それを考え続ける環境と習慣があってこそ起こる、というもの。そしてそのためにメモを用意し、ひらめきが起こりやすい場所(図書館とか電車の中とかパブとか自分なりのスペース)を毎日の行動習慣に組み入れる。そういう継続が、ひらめきを生む。なるほどな〜。
Chapter4 オリジナルな「言葉を作る技術」
ここでは、言葉の「リフレーミング」の法則、AIDA(注意関心)の法則などが紹介され、5W1Hで自問自答して、オリジナルの自分の言葉をつくっていく手法が紹介されているのですが、ここで一番印象に残ったのは「やっていはいけないどツボ自問自答」の質問。
こんな質問を自分に投げかけてはいけない
1.「なぜわたしはこのようなことをしているのか」
2.「どうして私だけが◯◯なのか」
3.「どうすれば◯◯◯できるようになるのか」
4.「なぜ誰も◯◯◯してくれないのか」
5.「いつになったら◯◯◯できるのだろうか」
これらはすべて問いかけた瞬間に答えがネガティブになりがちだから、違う質問に変えろと著者は言います。
とくに3「どうすれば◯◯◯できるようになるのか」は、一瞬適切に思えるのですが、あまりに固執してしまうと、限りなく高度なレベルを追求してしまったり、または低い次元に下降・低迷してしまい、「青天井」や「底なし沼」になってしまう可能性があって、本来の目標を見失う可能性があるので要注意だと述べています。
3の言い換え用語としては 「◯◯◯できるようになるには、どのようなスキルが必要?」 1は「ここからどんなふうに進めようか?」5「いつになったら・・」は「現時点でどこまで達成することができるのか?」と、少しでも前向きになれるような言葉の使い方に変えていくことが大事、だと述べられています。
Chapter5 相手を動かす「伝える技術」
時間を区切って聞き手の関心を引きつけるという項目では、STEP1 目的として 話の目的=目的地を決める、STEP2 理解 話し相手を知る(上司・部下なのか、得意先なのか、子ども・学生など相手の立場や考え方などを可能な限り予測し把握する)STEP3 方法 相手のレベルに合わせた話し方の選択 という3つのステップを通してまず手法を選択し、その後実際に伝えるときには、前半後半15分ずつに分け、更に6つのステップで人間の集中力(45分が限界)にあわせた伝え方をするとよい、と書かれていました。
もうひとつ印象に残ったというか、注意しないとなーって思ったのが24 プレゼンテーションを10倍よく見せる方法のところで 聴衆の関心を削いでしまう人のクセという項目があり、そこでやってはいけないことが書かれてありました
・頭、花、耳など体の一部を頻繁に触る
・髪の毛をかき分ける(特に女性)
・ペンやレーザーポインターをもてあそぶ
・貧乏揺すり
・咳払い、鼻をすする
こうやって羅列すると「そんなことするわけないでしょ」って思うんですが、最近よく自撮りの動画を撮るんですが、結構やってるんですよ、これ。気付かずに!わたしの場合は、髪をかき分けるというか、耳にかけたりしするし、何かしら目が泳いだり、咳払いっぽいことをしたりしてるんですよね〜、手持ち無沙汰になったり焦ったりするとこういう行為が出やすい。なのでよっぽど気をつけないとこういうクセは出てしまうので要注意だなと思いました。
Chapter6 壁を打ち破る「フィードバックの技術」
自分のやってきたことを定期的に振り返るフィードバックが大事というのがこの項目の主旨ですが、それ以外に、29ストレスコントロール術で思考伝達力を向上させるという項目もあり、それがなかなかおもしろかった。それと何かしら「壁」が出てきたときにどうやってそれを打ち破る「ブレイクスルー」するか?というところ。
ブレイクスルーは、自分でやりたい、何かを解決したいという気持ちが高まり(やる気)、それを実現化するために環境を整え(環境づくり)、そしてアクションに移すとき(行動)に必然的に起こる現象です。
なので、置かれている環境を変えないままで事態を切り抜ける場合は、「好奇心を持ち続ける」自由に思考し行動することによって新しい発想を生み、ブレイクさせる、または置かれている環境を変えることによって再トライするという方法でブレイクスルーが起こりやすくなるといいます。環境を変えて、やり方を変えて、考え方や話す人やスタイルを変えてみる。総合的に「意味のないこと」「答えのない問い」を繰り返しつつ偶然のひらめきを起こしやすい行動をしていくと、次のステップがやってくる。
こうやって書くと当たり前だけど、そういうことなんだろうな〜と思います。
こんな人におすすめ
別にかしこくなりたい人とかっていうことじゃなく、いろんな考え方や思考の方法を知りたい人には、どうやってものごとを考え、どうやってそれを深め、伝えていけばいいか?順序立てて少しずつ紹介されているので、よいなと思います。
わたしは、わりといろんな思考法や考え方などを知っているほうだと思いますが、それでも全然知らないなーっていうやり方なども簡単に紹介されていたので、興味が出たやり方やスタイルなどを、この本で入門的に知り、また別の本などでその学びを深めて自分のものにすると、よりよいのかな。あと、読んだあとすごくかしこくなったような気になる(気のせいだがw)。なんというか背筋がピンと伸びるような、そんな本です。